委託試験報告書

(財)関西グリーン研究所
2009年12月14日報告

1.試験名

ドライスポットに対する浸透剤「トライキュア」の効果試験

2.委託者

株式会社小畑辰之助商店

3.試験方法

(1)芝
ベントグラス
(2)処理区設定
トライキュア1.2cc 2.0cc /㎡ 散布水量1L/㎡
無処理区
(3)散布
ベントグラス圃場のドライスポット症状部に浸透剤を直接散布した。
散布は2009年8月29日、9月14日、10月29日に行なった。

試験区 I

試験区 II

(4)測定
・土壌水分の測定(土壌水分計を用い、0~5cm間および0~12cm間の水分率の測定を行なった。測定は各処理区5個所行った。)
・撥水程度の測定(処理区毎に土壌サンプルを抜き取り、その上に水滴を落し、その水滴がしみ込む時間を計測した)。なお測定は、散布前、散布3日後、散布1週間後、散布3週間後に行い、効果の持続性を調べた。
・芝に対する生育、葉色に与える影響
(5)試験期間
2009年8月~11月

4.結果

生育経過
8/29開始

試験区 I

試験区 II

9/14

試験区 I

試験区 II

9/26

試験区 I

試験区 II

10/24

試験区 I

試験区 II

土壌水分

 各処理区5個所の土壌水分率を計測し、最大および最小値を除いた3個所の平均値を求め、4反復の平均値を表に示した。

表1土壌水分率変化(表層0-5cm)

単位%

表層(0-5cm) 8/27 9/1 9/9 9/14 9/16 9/26 10/23 10/31
トライキュア 1.2cc 5.3 7.7 6.9 6.7 6.9 9.8 9.4 10.5
トライキュア 2.0cc 5.6 7.7 7.5 7.8 8.1 10.8 9.7 11.0
無処理 5.4 6.7 5.7 5.8 6.0 6.9 6.6 7.4

図1 土壌水分変化(表層0-5cm)

トライキュラ処理後の土壌水分は、無処理区が乾燥状態の水分値で推移したのに対し、最初の間はおよそ30%程度の増加であったが、その後はおよそ50%程度増加した水分値で移行した。トライキュア1.2ccと2.0cc区を比較すると、2.0cc区の方がやや高い水分値で移行した。

表2土壌水分変化(全層0-12㎝)

単位%

表層(0-5cm) 8/27 9/1 9/9 9/14 9/16 9/26 10/23 10/31
トライキュア 1.2cc 7.0 10.2 7.9 8.7 9.1 11.8 9.4 12.3
トライキュア 2.0cc 6.6 9.3 7.9 9.3 9.8 12.5 11.7 12.7
無処理 6.4 7.7 6.8 6.6 7.1 6.9 7.5 8.7

図2 土壌水分変化(全層0-12cm)

全層での水分値は、表層での結果と同様、無処理区の水分値に比べて全て高く移行した。トライキュアの1.2cc区および2.0cc区の差はほとんど見られない。

撥水性試験

 各処理区、径5cmのホールカッターでおよそ7cm深さにサンプルを抜き取り、表面から1cm、2.5cm、5cmの深さの所にスポイドで水滴を滴下させ、その水滴が土壌中にしみ込む時間を計測した。

表3 撥水性調査結果

  深さ

cm
散布前

(8/29)
散布後
3日
(9/1)
散布後
9日
(9/7)
散布前

(9/14)
散布後
3日
(9/16)
散布後
10日
(9/26)
10/23
トライキュア
1.2cc
1.0 10” 64” 138” 20” 3” 3” 10”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 3” 120”
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 225” 300”<
1.0 300”< 3” 2” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 3” 180” 9”
5.0 300”< 20” 300”< 300”< 3” 300”< 300”<
1.0 240” 3” 3” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 300”< 300” 300”< 3” 3” 30”
5.0 300”< 300”< 300” 300”< 300”< 300”< 245”
1.0 187” 50” 30” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 300”< 300”< 3” 3” 3” 3”
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 110” 80” 150”
トライキュア
2.0cc
1.0 70” 3” 2” 29” 3” 3” 3”
2.5 70” 300”< 300”< 300”< 74” 3” 150”
5.0 10” 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
1.0 300”< 6” 150” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 3” 3” 8”
5.0 190” 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 56”
1.0 270” 3” 3” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 3” 3” 3”
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 27” 3” 3”
1.0 300”< 5” 19” 3” 3” 3” 3”
2.5 300”< 131” 35” 3” 3” 3” 10”
5.0 300”< 300”< 300”< 3” 135” 3” 63”
無処理
1.0 86” 300”< 300”< 300”< 300”< 205” 300”<
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
1.0 300”< 300”< 300”< 180” 240” 40” 300”<
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
5.0 190” 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
1.0 300”< 300”< 50” 28” 60” 5” 180”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 60” 90” 300”<
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<
1.0 300”< 300”< 300”< 5” 3” 60” 3”
2.5 300”< 300”< 300”< 300”< 3” 300”< 90”
5.0 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”< 300”<

しみ込み時間(最大値) 0~5秒、5~30秒、 30~300秒、300秒以上

 試験期間中の計測値から撥水性の程度を求めるために、■0~5秒を1点、■5~30秒を2点、 ■30~300秒を3点、■300秒以上を4点として、それぞれ得られた数をかけて合計を求めた。それによると、トライキュア1.2cc区が217点、トライキュア2.0cc区が212点、無処理区が305点となった。これらのことから、試験期間中の撥水性の程度は、無処理>トライキュア1.2cc>トライキュア2.0ccの順番となり、トライキュア処理によって撥水性は改善されているものと考えられる。ただし、トライキュア1.2cc区は、表層部の改善にとどまっている傾向が伺える。

芝生育に与える影響

 試験最終に、芝が乾燥によって障害を受けた面積比率を計測した。障害率は、各処理区を100分割し、その中で乾燥によって障害を受けた面積から求めた。

処理区 障害率 %
トライキュア1.2cc 9.5
トライキュア2.0cc 2.5
無処理 20.3

乾燥害による障害率

試験区 I

試験区 II

 これによると、トライキュア1.2cc区の場合、4反復の内1つだけの障害率が高く、結果的に障害率の平均値が高くなり、およそ1割程度が乾燥によって障害を受けたことになる。トライキュア2.0cc区の障害率は5%以下となり、これも撥水試験のために抜き取ったサンプルが埋め戻した後に乾燥害を受けた部分も計算に入っているために、実質はほぼ乾燥による障害は少なかったと考えられる。無処理区の場合は、およそ2割程度の障害を受けたことになる。

補足試験

 トライキュアの散布量を多くした試験区を新たに設け、治療的効果を確認した。試験区の設定は下図の通りである。なお、散布は9月19日および10月29日に行なった。

土壌水分率の測定結果は以下の通りである。

土壌水分率% 0-05㎝

土壌水分率% 0-12㎝

 これらの結果からは、トライキュアの散布量を多くしても、最初の間は今まで散布を行なっていた試験区の方が土壌水分の均一性と水分率が高くなった。2回目の散布以降で今までの試験区と同じ程度の水分率になったが、散布量を増やすよりか反復散布した方が、ドライスポット対策としては効果的と考えられる。

5.考察

 ドライスポットに対してトライキュアを散布することによって、土壌水分率は増加し、芝生の乾燥による損傷率を抑える効果が認められる。トライキュア1回散布によって、土壌の撥水性を解消するにはなかなか至らないが、反復散布することによって撥水性の程度は弱まり、最終的には乾燥による損傷率は無処理の1/2~1/5程度に抑えられる効果が期待できる。トライキュアの散布量に関しては、1.2cc /㎡よりか2.0cc /㎡の方が土壌水分率、撥水性時間、乾燥による損傷率などから効果が高いと考えられる。3.0cc /㎡および5.0cc /㎡の散布量については、1回の散布だけで直ぐに土壌水分率が増加したり撥水性が弱まるような治療的効果は少なく、散布量が少なくても反復散布する方がドライスポット対策につながると考えられる。課題としては、撥水性が改善される深さが1~2cm程度の浅い部分に限られるケースが多く、5cm程度まで改善されていくような散布方法(散布量や水量、散布頻度など)を検討していく必要性があると考えられる。

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